海とメロンパンと恋


牛若丸に驚いて怪我をした千代子さんに
私が出来ることってなんだろう


そう考えるうちに


「家政婦の仕事って難しいものですか?」


そんな言葉が出ていた


「んと、そんな難しいことじゃないんだけどね」


どうやら干柿と命名したお爺さんのお爺さんの知り合いの家で

ご飯とお風呂掃除をするらしい


「それなら私も出来ます」


「え、でも、胡桃ちゃんを行かせるなんて」


「だって、千代子さん。その手では無理でしょう?」


サポーターをつけた左手首では
他所の家の家事までは熟せないはず


「でもねぇ」


渋る千代子さんを説き伏せて


「じゃあ、左手首が使えるようになるまでの二、三日の代打ってことで」


渋々頷いてもらった


「早速明日からなんだけど胡桃ちゃんに予定はないの?」


「毎日暇を持て余していたので
数時間なら平気です」


二時くらいに訪問して
お風呂掃除と夕飯の支度

メニューは和食ならなんでも良いらしく

食材は揃っているから買い出しの必要はないとのことなので


なんともアバウトで肩の力が抜けた


「あ、そうそう」


「なんでしょう」


「そのお宅、二十人の大所帯だからね」


「・・・っ」


その肩に力が戻ったのは仕方がない


「二十人っ」


「ええ、そうよ」


恐ろしく子沢山の大家族なのだろうか・・・

それなのに和食?

なんとも不可解ながらも
自分が言い出したからには乗り切るしかない


紹介状は明日用意しておくとのことで
臨時アルバイトをすることになった私は

結局、一時間ほど千代子さんとのお喋りに夢中で


行き先の詳細を聞き忘れた


それを


明日、どれだけ後悔するのか
現時点では知る由もない












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