海とメロンパンと恋



牛若丸と一緒に千代子さんの家へ向かう道中


お兄ちゃんとのプチ同居や
就職のこと、公園で勉強していることを話した

千代子さんからはご主人に先立たれ
一人暮らしで【干柿家政婦商会】を経営していることを聞いた


「干柿って渋い名前ですね」


「そうでしょ?これはね
爺さんの爺さんが好きだったからなんだって」


「へぇ。でも、私も干柿大好きです」


「あら、今時珍しい子だねぇ」


五十歳近くの歳の差も感じない“女子トーク”は楽しくて


あっという間に千代子さんの家に着いた


「お茶でも飲んで行って」


「良いんですか?」


「寂しい一人暮らしだから
アタシが嬉しいの」


「じゃあお言葉に甘えて」


公園が見える近さの千代子さんの家は
木造平家のこれまた祖母を思い出す家で

なんだかまた親近感を覚える


「牛若丸にもお水あげようね」


優しい千代子さんのお陰で玄関の中に入れて貰った牛若丸は

嬉しそうにお水を飲んでいた


「さぁ、どうぞ」


「ありがとうございます」


冷たい麦茶を入れて貰ってひと息つく

振り子の付いた昔ながらの柱時計に丸いちゃぶ台

薄いガラスの飾り棚に綺麗な布のかかった小さな鏡台


全てがレトロで懐かしくて
居心地の良い居間で暫くお喋りの花を咲かせていると


「・・・あっ!」


突然何かを思い出したのか
千代子さんが焦り始めた


「どうか、しましたか?」


「あ、いや、えっと、どうしよう
困ったわねぇ」


「千代子さん?」


「あ、胡桃ちゃん。あ・・・んと」


困ったように眉を下げた千代子さんは
明日から二週間ほどの約束で依頼があったことを思い出したという







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