海とメロンパンと恋


ピンポーン


「干柿家政婦商会から来ました」


今日は元気よくインターホンも使えた


「いらっしゃーい」


開けられた門から警戒心ゼロで中へと入る


・・・慣れって恐ろしい


「やぁ、いらっしゃい」
「クミちゃん、今夜も楽しみにしとくよ〜」
「昨日は美味かったよ」


廊下ですれ違う厳ついさん達も
やけにフレンドリーになっている

胃袋を掴むってこういうことなのね


妙に納得したところで
今日も然程汚れていない岩風呂を念入りに掃除する


それが終わると誠司さんと厨房で並んだ


「昨日の、めちゃ人気で残食無しっす」


「へぇ、そうなんだ」


「もっと喜んでくださいね、頭なんて
ほぼ飯は食わずに酒を飲んでるのに
珍しく『全部』ってご飯まで食べたっす」


興奮している誠司さんには悪いけど
厳ついさんの胃袋を掴んだところで

これから先の人生の役に立つとは思えない


それでも、機嫌を損ねるのも得策じゃない


「じゃあ喜びますね」


「クミちゃん、変わってる」

・・・いや、一般論ですっ


それより気になるのは、昨日も思ったけれど


「此処の食材は誰か買い出しに行ってるの?」


使い放題で楽しいんだけど
市場から直送みたいにトマトは半分青かったりするし大根は包丁を入れる時のみずみずしさが半端ないし
全てが箱買いみたい


「あ、食材は市場から配達で
肉は肉屋、魚は魚屋からのお任せで
買い出しに行くのは調味料とか
市場で調達出来ないものだけっす」


「やっぱり」


冷蔵庫の中で葉物野菜には濡れた新聞がかけられてあるし
温度に合わせて食材が棚で分けられている

余程の目利きが管理していると思っていた


「今日は何っすか?」


仕分けられた食材を見ながら
誠司さんが手を洗って準備を始めた

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