海とメロンパンと恋
人生最大のピンチッ



三日目



ピンポーン


「干柿家政婦商会から来ました」


「クミちゃん、いらっしゃい」


今日は昨日より増して廊下で声がかかる


「昨日の肉じゃがに惚れたよ」
「俺はホイル焼き〜」
「漬物なんて自分で作れるのか」


どうやら昨日の夕飯もお気に召したらしい


早速、お風呂の掃除に取り掛かろうと
【ゆ】の暖簾をくぐったところで息を飲んだ


「・・・・・・っ!!」


誰も居ないと思って入った脱衣所に
裸の男性が一人

こちらを向いていないことは幸いだったけれど

その所為で背中を昇る恐ろしい龍と目が合ってしまった


「し、つれいしまし、たっ」


逃げるように脱衣所を出ると廊下に蹲み込む


・・・・・・今の、何


顔は見えなかったけれど
それ以上に気になる背中の模様


いや、そうじゃない


女人禁制のこの厳つい集団で
私こそが痴女かと疑う行動


「・・・どう、しよう」


頭を抱えた私の後ろから


「風呂、空いたぞ」


声がかかった


「・・・っ!」


驚きで肩が跳ねるのはこの際仕方がない


恐る恐る見上げると


「・・・っ」


さっき見た男性が立っていた


「あ、あの、すみませんっ
入ってるの知らなくて」


蹲み込んだまま頭を下げる私に


「この時間に入った俺が悪りぃ」


男性は気にしていない風で


「掃除、よろしく」


そう言うと行ってしまった


「・・・・・・ハァ」


気を取り直して脱衣所に入る

洗濯カゴの中にあるものをなるべく見ないように


岩風呂の掃除を始めた


もちろん浴槽は空のままで
さっきの男性はシャワーだけ浴びたようだった








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