海とメロンパンと恋



ーーーーー翌日



いつもより念入りにお洒落をして
髪も緩く巻いた私を


お兄ちゃんは肘を浮かせてエスコートしてくれた


七時でも明るい大通りを
腕を組んで歩いているだけなのに

道行く女性の視線を集めているお兄ちゃんは

熱いそれらを全て無視して
私に話しかけてくるから


「お兄ちゃんモテるのに
なんで彼女がいないの?」


疑問が口を突いて出た


「あ〜、そうだな〜。俺はイケメンだけど
優しくないからかなぁ」


どうやら冷静に自己分析もできるらしいし


彼女のできない理由を“優しくない”と抽象的に語る


「理由が分かってるなら優しくなれば良いのに」


「優しい男なんていくらでも居るぞ?
優しくされたいなら他をあたれって」


「あ〜、優しくない」


「・・・だな」


フフと笑う私に釣られてケラケラと笑うお兄ちゃん


駅ナカの有名らしいイタリアンまで
会話が途切れることはなかった


「いらっしゃいませ。高橋様」


気後れするような格式の高いイタリアンは
崩された筆記体に名前が読めなかった


名乗らなくても挨拶されたお兄ちゃんに驚いているうちに


「こちらです」


赤く染まる空が眺められる個室に通された


「胡桃、緊張してるのか」


「だって」


素敵なお店過ぎて動きがぎこちなくなるのは慣れていないから仕方ない


「だと思って個室にした」


クッと笑うお兄ちゃんは
慣れた様子でメニューをめくり


「俺が頼んでいいか?」なんて
これまた慣れた風に注文


「ワインで乾杯な」


「・・・うん」


最後の夜を素敵に演出してくれた





優しくないらしい
お兄ちゃんはカッコいい


いつかお兄ちゃんの魅力に
気付いてくれる人が現れるといいな


徐々に漆黒に包まれる街を見下ろしながら


優しい兄とのお喋りはいつまでも続いた










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