海とメロンパンと恋



「お兄ちゃん」


「ん?」


「もう買い物には行かない」


夕飯を食べながらそう言った私を
お兄ちゃんは驚いた顔で見つめる


買い物に行かないということは
冷蔵庫を空にするということで

イコール、私が帰ることを意味する


「・・・・・・そうか」


いつもなら『なんで』と聞き返してきそうなのに


諦めた返事がきたのには訳がある

お兄ちゃんが帰宅後、早々に


『牛若丸の散歩、お兄ちゃんに返すね』


そう告げたからだ


そのことも『なんで』とは聞いてこなかったけれど


ボンヤリしたままの私の態度と
いつもより時間がかかった夕飯の支度で

何かを察してくれたようだ


「夏休みには来るよな?」


有無を言わせないこれには


「うん」頷くしかなかった


でも、夏休みなら八月

お盆明けに来るとすれば


頭さんも私のことは忘れているだろう


色々を自己完結させて
翌日からは引きこもってテキストと睨めっこ


あっという間に底をついた食材のお陰で


帰ると決めて三日で
元の飲料しかない冷蔵庫に戻った


「明日は最後だから外食にしよう」


「いいの?」


「あぁ、家事も勉強も頑張った胡桃へのご褒美だから
豪華ディナーにしよう」


「ワァ」


飛び跳ねるほど喜んでいる私にまとわりつく牛若丸


暫く会えないことに泣きそうになる気分を


ワシャワシャと撫でることで誤魔化した


「連れて帰りたいなぁ」


ギュッと抱きしめて首元の匂いを吸い込むと


「四国は店があるからダメだろ?」


正論でバッサリ切られた


「ゔぅ」そんなこと言われなくても分かっている


「意地悪」唇を尖らせてお兄ちゃんをひと睨みする私を


「だから、夏休みに入ったらすぐ
こっちに来れば良いだろ?」


更に意地悪そうな顔で笑った




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