海とメロンパンと恋



「胡桃」


久しぶりの頭さんの呼びかけに顔を上げる


そこで漸く気付いたのは
私達を遠巻きに囲むギャラリーだった


「・・・っ」


私の視線を追うように私から視線を外した頭さんは


「チッ」


小さく舌打ちすると後ろを振り返った


「・・・ぁ」


頭さんで見えなかったけれど
後ろにはあのインテリ風の男性が立っていて

ギャラリーの元へと歩いて行った


途端に人垣が崩れて人影も疎らになる


それを確認すると


「胡桃」


頭さんはもう一度私の名前を呼んだ


「・・・はい」


「公園にはもう来ないのか」


もしかしたら待っていてくれたのだろうか

ベンチに座る頭さんを思い浮かべるだけで
胸がギュッと苦しくなった


明日には四国に帰るから
公園には行けない


「行けません」


行かない訳じゃないことが
頭さんに伝わるだろうか


「そうか」


「はい」


「胡桃」


私を見下ろす瞳は僅かに揺れていて

たったそれだけのことなのに


胸が苦しい


泣きたくもないのに


込み上げる感情の止め方を探すうち


瞬きをしないように踏ん張ることしかできなくて


私を見つめる頭さんの三白眼が優しいことに気づいただけで


ポロリ、溢れ落ちた



「・・・胡桃」



あの日と同じように涙を拭ってくれようとしたのか


伸びてきた頭さんの手を


「タイムオーバー」


お兄ちゃんの手が阻止した


「胡桃、帰るぞ」


また私を抱き上げたお兄ちゃんは


頭さんを避けて歩き始めた


「掴まってろよ」


「・・・うん」


お兄ちゃんの首に手を回して
肩に顔を埋めて


溢れてくる涙を隠した





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