海とメロンパンと恋
頭さんの正体


「・・・み!胡桃っ!」


「・・・ん?」


「あんた、それどうするつもり」


お母さんの呆れ顔に手元を見れば


「あっ」


卵焼きが醤油漬けになっていた


「ご、めんなさいっ」


慌ててお皿を持ってキッチンへ走ると、お醤油を流した


「考えごと?」


「ううん」


「いや〜ね〜、寝ぼけちゃって」


ケラケラと笑ったお母さんは
卵焼きに刻みレタスを混ぜて
食べやすくしてくれた


「辛い?」


「ん、平気」


本当は辛いけれど
お醤油を無駄にした罪は重い


「考えるより、行動あるのみ」


突然のお母さんの助言に
曖昧な笑顔を作ってみたけれど


四国に戻ってからの私は
心ここに在らず、らしい

らしいって言うのは
両親とお客さんからの指摘だから
自分では気づいていなかった



だから、行動なんて出来るはずない



名前も知らない頭さんを
いつも思い浮かべては


ボンヤリする私のことを


お母さんがコッソリお兄ちゃんに確認してるだなんて


全く知らなかった


夕方、家の前の堤防に座って海を眺める


キラキラ乱反射する水面


打ち寄せる波


全く同じ姿のない海は
何時間でも眺めていられる


『胡桃』


その波の音に混ざって
頭さんの声まで蘇る


「頭さん」


そう口にしたところで
手に持っていた携帯電話が鳴り始めた


【090・・・・】


・・・誰?


知らない携帯番号に
躊躇いが生まれる


そうしているうちに切れたから


間違い電話だったかもと完結させた


それなのに


また鳴り始めたそれは
同じ番号を表示していた

意を決して画面をタップする

「・・・」

警戒してひと言目を飲み込んだ私の耳に


(胡桃)


願っていた声が聞こえた



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