海とメロンパンと恋


「俺は反対だ」


察しの良い桐悟のことだから
きっと胡桃と俺が恋人じゃないことは勘づいているだろう


だから俺に断りを入れに来た

そういうところは嫌いじゃないが

胡桃には出来れば普通の人と出会って普通の人生を歩んで欲しいと思っている


桐悟となら、その普通は手に入らない


それに・・・危険な目に遭うかもしれない


・・・俺の所為、か


四国でパン屋を継ぐことを決めていたら
此処で桐悟と会うこともなかった


いや・・・違う

あのマンションに住んでいる限り
パン屋を継いだとしても

どこかのタイミングで会っていたのかもしれない


・・・クソ


「なぁ、柚真。胡桃に聞いてくれねぇか」


・・・クソ


狡い男だ


「聞いたとしても会えねぇぞ」


「・・・え」


「もう此処には居ない」


「・・・何処に」


「それは、言えない」


筆頭の組長の側近に抜擢された男に
自由な時間は限られているはず

間違っても四国までは行かないだろう


「胡桃をみすみす危険な目に遭うような桐悟の隣へ置く訳にはいかない」


「・・・」


「俺は、あの笑顔を護る為なら
お前とのこれまでを無かったことにするくらい何でもない」


「・・・」


「胡桃が幸せになる道を
選ばせてやりたい」


狡いと言われても結構

黙ったままの桐悟へ

畳みかけるように言葉を浴びせる


それを黙って聞いていた桐悟は


「危険な目に、遭わせる訳がねぇ
胡桃の笑顔は俺だって護りてぇ
それに・・・
幸せになる道を決めるのはお前じゃない
胡桃自身が決めることだ」


三白眼を鋭く細めて言い切った





強い桐悟の想いに触れて

不覚にも揺らいでしまったのは


きっと、胡桃も同じ答えを導き出しそうだから・・・


・・・クソ


「なんで、胡桃なんだ」



ポツリと溢れた本心は二度目
何度だって言ってやる


「俺にも分かんねぇが
胡桃じゃなきゃ、要らねぇ」


狡い男は真っ直ぐそれにトドメを刺した





side out








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