海とメロンパンと恋



受付で渡して帰ろうかと思ったおにぎりは

混雑している受付に諦めて

整形外科の診察室がある二階まで持ってきてしまった


混雑している待合室に気後れしていると


「・・・クミ、ちゃん?」


声がかかった


キョロキョロと周りを見回すと
久しぶりの陽治さんが見えた


「陽治さん」


ちょうど三人がけの長椅子に
陽治さん一人が座っていたから
近付いてお辞儀をした


「ご無沙汰しています」


「ちょ、頭、下げねぇで良いって」


「あ、そっか、フフ」


変なやり取りに口元を隠しながら笑うと

みるみるうちに陽治さんの顔が赤くなった


「・・・え、お熱ですか?」


「・・・あ、いや、違う」


「だって」


「そんなことより、クミちゃん」


「はい?」


「あれから頭とはどうなった?
あの日、クミちゃんが連れ出されてから
俺ら、気が気じゃなくてさ
それなのに次の日から来なくなって
めちゃくちゃ心配してたんだ」


「・・・あ、そうでしたね」


三日目に桐悟さんに連れ出されたのを最後に
穂高組へは行っていない


それより・・・


「陽治さん」


「ん?」


「どうして私って」


「変装してたのにか?」


「・・・はい」


「んなの簡単、アレで変装してるつもりとか
素人丸出しだっつーの」


「・・・そう、ですか」


「それに」


「それに?」


「クミちゃん、眼鏡取って髪を下ろしたら
可愛いんだろうなって想像してたし」


「・・・っ!」


「そしたら、すぐ分かった」


「・・・」トホホです、千代子さん


「てか、クミちゃんどっか悪いの?」


「あ、」


スッカリ此処へ来た趣旨を忘れていた


「陽治さん、ごめんなさい。また」


もう一度頭を下げると
整形外科の受付まで小走りで進んだ

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