海とメロンパンと恋


「あの」


受付のクラークに事情を説明して
渡して貰おうとしたのに


「妹さんなら大歓迎」なんて


そのまま整形外科の診察室の中へと引き摺り込まれた


「お、胡桃〜」


相変わらずのお兄ちゃんは
私が来たことに大して驚かず


「胡桃の所為で腹ペコだ」なんて
診察の合間どころか、その場で食べ始めた


「先生、喉詰まりますよ」


なんてお水を持って来てくれる看護師さんもいれば


「妹さん可愛い〜」なんて
お世辞で喜ばせてくれたり


お兄ちゃんのテンションに合っているような

看護師さんが多く居て、なんだかホッとした


「春から受付だって?」


声をかけてくれたのは
診察室内に常駐の医療クラークさん


「はい、よろしくお願いします」


丁寧に頭を下げると


「よろしく頼むよ」


お兄ちゃんからもフォローがあった

あまり邪魔してもいけないから
切り上げて帰ることにした


待合室へ出ると
陽治さんの姿は見えなくて

診察か帰ったのだろうと
そのまま外へと出た


「胡桃」


自動ドアを出たところで
昨日振りの桐悟さんが立っていた


「・・・こんにちは」


「柚真のところか?」


「はい」


「陽治から聞いた」


「・・・そうなんですね」


「少し時間あるか?」


「えっと・・・」


寝坊の上に慌てて飛び出したから
まだ家事をまる残しの状態を
説明してみる


「お昼からなら大丈夫か?」


猶予を貰えた


「はい。大丈夫です」


「じゃあ、公園で待ち合わせしよう」


「はい」


そのまま桐悟さんは僅かな距離を見送ってくれた


そこから慌てて家事をこなし
丁寧に支度を済ませる

朝も昼もご飯を食べ損ねたことも忘れて
待ち合わせのベンチへと向かった




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