海とメロンパンと恋



「胡桃に会いたい」


俺の想いに


「・・・クソが」


柚真の答えはこれまでと違っていた


「何処に行けば会える?」


「実家」


「・・・柚真の実家?」


確か柚真と出会って早々に聞いた気もするが
記憶に残っていない


「教えねぇよ?それじゃあ意味ないだろ」


「酷いお兄さんだな」


「チッ、お兄さんって呼ぶな」


悔しそうに酒を煽る柚真を見ながら


頭は過去の記憶を掻き混ぜていた


・・・どこだ


胡桃から届いた写真は海が多かった


でも、あの海は此処の海とは別物


一生懸命になると決めたんだ
冷鬼の力は借りねぇ


僅かな手掛かりを探すために立ち上がった


「じゃあな、柚真」


「あぁ」


柚真の会計も済ませて店から出ると
そのまま家へと戻った



・・・



部屋に入るとパソコンを立ち上げた


「何か手掛かりに・・・」


メッセージに添付された写真は全て保存済みだ


パソコン内のデータと同期されているから
こちらの方が拡大出来るだろう


パソコンを食い入るように見る俺の後ろから


「干柿に行ってみる」


蒼佑の声がかかった


「頼む、蒼佑」


「お安い御用だ」


蒼佑を見送ると視線を戻した


画面に写し出された写真は綺麗な海


胡桃がいつも見ている景色に嫉妬しながら


海以外に神経を集中する


万枚か捲るうち・・・
ある一枚で手が止まった


「・・・これ」


配達の帰り道を何気なく撮ったそれに


小さな看板が写り込んでいた


[畳店]だけという肝心な頭の部分が欠けているそれと

下四桁だけの電話番号


携帯電話を取り出して


[畳店]と下四桁を入力してみる


「・・・っ、あった」


[シゲ畳店]


ホームページはないけれど
電話番号と住所がタウン誌に掲載された記録が出てきた


「・・・四国、か」


掻き混ぜても思い出せない記憶は諦めた


干柿に走った蒼佑の電話を鳴らしてみる


「蒼佑」

(分かったぞ)

同じように高揚した蒼佑の声が聞こえた


蒼佑が戻るまでの間に
畳屋と同じ住所でパン屋を検索する


畳屋と違って途端に溢れ出てくる情報に
頭の予定を思い出していた




side out


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