初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
「小夜子。どこに行くの? もう時間よ」
「……はい」
手を引かれて多くの人で賑わう室内を進み、隣り合わせにあるサンルームに向かう。
来月になればバラが咲き乱れる庭が見渡せる、ガラス張りの部屋の中央にある白いグランドピアノの前に立つと父親がコホンと咳払いをした。
「みなさま。これから娘の小夜子が本日のお礼として、ピアノを披露させていただきます」
父親の言葉に続いてお辞儀をすると、拍手が鳴り響く。
私はオリハラ楽器の社長である父親と、中学の音楽教師だった母親の影響で、二歳からピアノを習っている。
休日の午後にはこのサンルームでピアノを弾いて、家族四人で楽しいひとときを過ごす。けれど、今は自分に向けられた多くの人の視線が気になって落ち着かない。
間違えたら、どうしよう。
弱気な気持ちが込み上げてくるなかイスに座り、小さく震える指を鍵盤の上に置いた。
これから、モーツァルトの〝きらきら星変奏曲〟を演奏する。
明るくて楽しいこの曲は大好きだし、母親と何度も練習を重ねてきたから大丈夫。
不安を掻き消すように自分を励まし、誰もが知っている有名なメロディを奏でた。でも、緊張のせいか思うように指に力が入らない。
練習のときは、もっとうまく弾けたのに……。
悔しい思いが込み上げてきて平静さを失ったとき、それは起きた。