初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
暗譜が飛び、ピアノを弾いていた指が止まる。
今まで一度も間違えたことのないパートで、ミスをしてしまうなんて信じられない。
初めての経験にショックを受け、頭が真っ白になってしまった。
「どうしたのかしら」
「もう終わり?」
ピアノの音が鳴りやみ、静寂に包まれた室内がざわめき始める。
イスに座ったまま動けずにいる私の耳にも招待客の戸惑う声が聞こえ、ハッと我に返った。
そうだ。続きを弾かなくちゃ。
ドクンドクンと激しく乱れる心音をうるさく思いつつ、背筋を伸ばす。けれど、どこまで演奏したのか思い出せない。
大事な日にミスをしてしまうなんて、きっとみんなあきれている。
悲しい気持ちが胸いっぱいに広がり、瞳から大粒の涙がポトリと落ちて鍵盤を濡らした。
「大丈夫。落ち着いて。僕と一緒に最初から弾こう」
涙を流す私の耳に、聞き覚えのある声が届く。
手の甲で目もとを拭うと、私の横に膝をついてニコリと微笑む直君の姿が見えた。
優しく接してくれるのはうれしいけれど、また間違えてしまうかもしれないという不安を拭い去ることができない。
彼から視線を逸らし、首をフルフルと左右に振る。