初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~

そして、モルディブ滞在二日目は午前中に人生初めてのシュノーケリングに挑戦し、午後は窓を開け放した室内のソファで体を寄せて、どこまでも続くエメラルドグリーンの美しい海を眺めてまどろむ。

夕方になると茜色の太陽が水平線に沈んでいく様子をプライベートテラスのデッキチェアから見つめて、辺りが暗闇に包まれるとレストランに移動する。

海に向かって設置されたソファ席に並んで座り、暖色系の灯りがともるシックな店内に流れるジャズピアノの生演奏に耳を傾けてカクテルと料理に口をつけた。

ピアノを弾けなくなっても、その動きは体に沁み込んでいるようだ。彼がメロディに合わせて、鍵盤に見たてたテーブルを右手の指で弾く。

日本では見たことのない上機嫌な様子を微笑ましく思って笑みを漏らすと、彼が首をかしげた。

「どうした?」

「幸せだなって思って」

今の自分の思いを素直に打ち明け、彼の肩にもたれかかる。

「そうだな。日本に帰りたくなくなるな」

赤道に近い常夏のモルディブにいると忘れてしまうけれど、今はもう十二月で帰国したら慌ただしい日常が戻ってくる。

誰にも邪魔されないふたりだけの時間を過ごせるのもあと数日しかないと思うと、急に切なくなってしまった。

寂しさを紛らわすようにゴツゴツした手に触れると、彼が耳もとに唇を寄せて甘くささやく。

「今すぐヴィラに戻って、朝までたっぷり愛し合おうか?」

情熱的に誘われたら断れないし、私もそれを望んでいる。

「うん」

小さくうなずいた私を見て、満足げに微笑んだ彼の手を借りてソファから立ち上がり、そのまま指を絡ませてレストランを後にした。
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