初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~

「さて、なにから話そうか」

結婚式当日と同じスイートルームのリビングのソファに座った彼が、長い指先でネクタイを緩める。

元カノの話を聞くのは気分のいいものじゃないけれど、このままではなにかあるたびに美琴さんの存在を思い出して不安に駆られてしまう。

もう、私の知らない過去に振り回されるのは嫌だ。

覚悟を決めて彼の隣に腰を下ろし、切れ長の瞳を見つめる。

「麻里江さんから、酔っ払って道路に倒れ込んだ美琴さんを庇って交通事故に遭ったって聞いたけど本当なの?」

痛ましい事故の原因を聞いたときは頭が混乱してなにも考えられずにいたけれど、一週間が経った今では、美琴さんを許せないという麻里江さんの気持ちも理解できるようになった。

ピアニストになるという夢を絶たれた当の本人は、事故の原因である美琴さんをどう思っているのか気になり答えを待った。

「あの日はウィーンで国際ピアノコンクールがあったんだ。まあ当然、俺が優勝したわけだが仲間がお祝いに駆けつけてくれて、そのままひと晩中酒を飲み明かした。事故に遭ったのはその次の日の明け方だ。まだ酒が抜け切れていない美琴を家に送る途中の出来事だった。段差によろけて車道側に倒れそうになった彼女の腕を咄嗟に掴んで強く引いた。それからの記憶は実は曖昧で、道路に倒れ込んだ自分に向かって走って来る車が見えたことと、左手に焼けるような痛みが走ったことくらいしか覚えていない」
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