初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
独身だった事実がなぜかうれしくて、頬が勝手に緩んでしまう。
「ありがとう」
気分よくグラスを受け取り、カチンと合わせた。
「初めて会ったときも、今日と同じブルーのドレスを着ていたな。懐かしいよ」
誕生日パーティーははるか昔のことなのに、まるで昨日の出来事のように当時を語る彼に驚き、ワインに口をつけようとしていた動きが止まる。
「二十年前のことを、よく覚えているね」
「印象的な出会いだったからな」
口もとにグラスを寄せていた彼がクスッと笑う。
きっと彼の脳裏には、演奏を間違えて泣いた幼い私の姿が浮かんでいるのだろう。
気恥ずかしい気持ちを隠すように、黙ったままワインを飲んだ。
「今はどんな仕事に就いているんだ?」
急に静かになった私を気遣うように、彼が話題を変える。
「音楽教室で子供たちにピアノを教えているの」
「へえ、そうなのか」
「うん」
誕生日パーティーが終わってから、彼の影響を受けてピアニストになりたいと思うようになり、練習に励んだ。しかし、努力すればピアニストになれるという甘い世界ではない。
コンクールに参加しても入賞すらできない現実に自分の限界を感じた私は、音楽大学を卒業してオリハラ楽器のグループ会社である『オリハラ音楽教室』に就職した。そして、今はピアノ講師として働いている。