初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
「家まで送るよ」
「うん。ありがとう」
〝あがり〟を飲んでお手洗いから戻ると、彼が板前さんに挨拶をして席を立つ。
話は帰る途中でしようと考え、颯爽と歩を進める彼の後をついて行き外に出た。すると、店の前に止まっていたタクシーのドアが開く。
「女将に呼んでもらった」
「そうなんだ」
「ああ。どうぞ」
「ありがとう」
手際のよさに感心しながら、お礼を言って後部座席に乗り込む。
「成城まで」
「はい。かしこまりました」
隣に座った彼が運転手さんに行き先を伝えると、タクシーが静かに走り出した。
後部座席の窓の外には、待ち合わせをした時計台があるデパートが見える。
今の時刻は午後九時三十分。彼と一緒にいると、時間が経つのが早く感じる。
タクシーに揺られて、ふたりで過ごした楽しかった時間を思い返していると、お金を払っていないことにハッと気づいた。
「あっ、食事代」
きっと私がお手洗いに行っているときに、タクシーを手配して会計を済ませてくれたのだろう。
お財布を取り出すために、慌ててバッグに手を入れる。その動きを制するように、彼が私の手首を掴んだ。
「俺が誘ったんだ。気にしなくていい」
「でも……」
そう言われても、彼の負担を考えるとすぐに「はい」とは言えない。けれど、強引にお金を渡しても彼はきっと受け取ってはくれない。