初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~

初めて知った、あまりにも残酷な事実に言葉を失う。

両親は結城のおじさまから、彼の痛ましい過去の出来事を聞いていたはずだ。

そんな大事なことを、どうして教えてくれなかったのだろうと憤りを覚えた。けれど、私がショックを受けないように隠していたのではないかと思うと怒りも長くは続かない。

慰めの言葉すらかけられない自分を情けなく思っていると、つらい過去を淡々と語っていた彼が腕時計をはずした。

私の目の前に伸びてきた彼の左手首の内側には、深い手術跡が残っている。

「痛かった?」

「ああ。この傷跡を見るたびに胸が痛む」

痛々しい傷跡に指をあてて尋ねると、彼が悲しげに目を伏せた。

傷口はとっくに塞がっていても、ピアニストになるという夢を一瞬で奪われた彼の心の傷は何年経っても癒えることはないのだろう。

異国の地で夢を絶たれた彼の気持ちを思うとやるせなくて、瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。

「もうピアノが弾けないとわかったとき、小夜子ちゃんの顔が頭に浮かんだ。応援してくれたのに、ピアニストになれなくてごめん」

二十年前、結城のおじさまのようなピアニストになるのが夢だと語っていた彼に、私は『直君なら絶対なれるよ!』と、たしかに言った。
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