宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
一花が島で暮らし始めて、ようやく慣れた頃。
ある日突然、一花に会う為だけに水杉陸の母親が島を訪れた。
管理人の山形に案内されて、母屋ではなく直接離れへ足を運んできたのだ。
あの傲慢そうな水杉陸の母とは思えない、地味なワンピースに身を包んだ上品な女性だった。
「じゃあ、大奥様。後ほどお迎えに参ります。」
そのまま山形は庭掃除にいってしまい、一花は一人で陸の母親と向き合う事になってしまった。
「いらっしゃいませ…。」
何て挨拶をすればいいのか迷っている一花に、その人は微笑んだ。
「突然、ごめんなさいね。」
話し方もおっとりしている。
「陸の母、水杉敏子です。」
「ご挨拶が遅くなりました。一花と申します。」
『水杉』と名乗るのが申し訳なくて、一花は名前だけ言うと頭を下げた。
狭いリビングに案内すると、敏子は珍しそうに部屋の中を見渡していた。
母屋に一花が住んでいないのが本当だとわかったのだろう。
「ここで…お一人で?」
陸の母親は少し驚いた表情を見せていた。