宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
「とても気持ち良く過ごさせていただいています。」
「そう?」
「景色もいいし、お魚も美味しいし…。」
クスリと敏子は笑った。上品な笑い方だった。
お茶を入れて敏子の前に出し、一花もテーブルを挟んで向かい合うように座った。
「管理人の山形はあなたと息子の事…詳しい事は知らないでしょうが、私は聞いています。」
「はい…。」
つまり、形だけの結婚で本当の意味では水杉家の嫁ではない。
陸の妻らしく振舞わなくてもいいと言ってくれたのだろう。
「陸の母として、謝りにきました。本当にごめんなさい。」
陸の母は、一花に向かって深々と頭を下げた。
突然の事に一花は驚いてしまった。罵られる事はあっても、まさか謝られるなんて…。
「そんな…お義母様、頭を上げて下さい。」
「義母と呼んでくれるの?」
「勿論、呼ばせていただけるなら…。」
「嬉しいわ。私、娘が欲しかったの。一人しか子供を授からなくて…。」
「そうでしたか。」
「あなたのご家族にも申し訳ないの。こんな結婚させてしまって。
陸はここには来ないのでしょう?」
正直に答えるべきか、一花は少し迷ったが取り繕うのはやめた。
「お義母様、私はちっぽけな島との交換で結婚しましたけど…
私もそれなりには条件を出させてもらっています。」
「それで、あなたは満足なの?」
「はい。私がここで暮らしている事を、お義母様は気になさらないで下さい。」
「一花さん…。」
「自由気ままですし、妻らしいことを何もしなくていいなんて…ラッキーかもしれません。」
また少し、敏子は笑った。