宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
一花は、母が運び込まれた病院に来ていた。
この夏までは元気そうだったのに、急に呼吸不全で倒れたのだ。
電話連絡を受けてすぐにフェリーに飛び乗った。
JRを乗り継いで、やっと施設に着いた時はもう10時を過ぎていた。
施設の職員は東京の弟にも連絡を入れていた。それくらい危険な状態だったのだろう。
「弟さんも今日中にはこちらに着くとの事でした。」
「ありがとうございます。連絡して下さって。」
「お二人揃ったら、お医者様が容態のご説明をして下さるそうです。」
職員は一花が到着したのを確認すると病院から帰って行った。
そうなると一花は一人きりだ。母のベッドの側にポツンと座る。
母は薬で眠っていた。
すぐに持ち直した様だが、酸素の吸入は続いていた。
呼吸心拍の監視の機械が時折アラームを鳴らす。その度に看護師が駆けつけてくるのだ。
看護師は慣れた手つきで酸素量を調整しているが、一花は気の休まる時が無い。
緊張したまま時間だけが過ぎて行った。
歩が病院へ着いたのは、日付が変わる少し前だった。
「姉さん。遅くなってゴメン。」
「歩…。」
心細かった一花はポロポロと涙が零れるのを堪える事が出来なかった。
「あのね、泣くつもり無かったんだけど…歩の顔を見たら…。」
「わかってる。一人でこの部屋にいるの辛いよね。」
機械に囲まれて、幾つものチューブに繋がれている母。
患者を見慣れている歩だって辛いに違いない。
「当直の先生が、たまたまお母さんの担当の方で…説明して下さるって。」
「わかった。」