宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
陸を見送ってから、一花は大急ぎで離れの荷物を片付けた。
今日は陸の荷物を取りに業者が来る予定だ。
それに紛れて、自分の荷物を母の実家である島谷の伯父の家へ送る手はずだ。
それなら島でも目立たないだろう。
業者に荷物を引き渡したら、今度はフェリーに乗って本州側に渡った。
駅から電車に乗って、見合いの日以来になる海沿いの街まで行く。
一花はあの日の立会人だった弁護士の田沼を訪ねたのだ。
急な訪問だったが、緊張した面持ちの一花を田沼弁護士は穏やかな表情で迎えてくれた。
「突然、申し訳ありません。」
「いえ、今日は特に予定がなかったので大丈夫ですよ。…どうかされましたか?」
娘のような年頃の一花に、田沼は優しかった。
「実は、離婚を考えているのですが…。」
「そうですか。」
「驚かれないんですね。」
水杉相手に面倒な仕事だから、きっと嫌がると一花は思っていたのだ。
「いえ、正直、この結婚は難しいと思っていましたから。」
「…私は細かい事は良くわかりません。
契約のような物があると聞きました。どうしたら水杉と離婚できますか?」
「もう、決心は固まっておられるんですね。」
「はい。慰謝料とかは一切要りません。ただ、私が自由になりたいのです。」