キス魔な御曹司は親友の妹が欲しくて必死です
『せっかく有川のお嬢さんを送り込んだというのに、無駄だったようだな。お前の性格を見越して見合いという形ではなく自然とその気になってくれればと思ったが、先にいい人がいたとは、有川さんに悪いことをした』
『見合い相手と言っておきながら見合いの話をしなかったのはそういうことでしたか』 
少しも悪いと思っていないような顔で肩を竦める父。
顔合わせをしておきながらひと言も見合いの話をしなかったのは父の入れ知恵だったのか。おかげで断り辛くて参ったというのに悪びれない父を恨めしく思う。
『有川のお嬢さんを縁談に勧めたのは向こうの強い要望があったからだが、この縁談を断るというのならプロジェクトにも大きくかかわっている有川商事の協力が大きく削がれることになるだろう。智成にはそれ以上の成果を出してもらわなくてはな。お前にはプロジェクトの成功を結婚の交換条件とする』
暗に有川商事の穴埋めをしろと言ってにやりと笑う父に空恐ろしさを感じながら俺は頷いた。
これで茉緒との結婚を認めてくれるのなら容易いものだと思ったが、詳しく聞けば、目玉となる出店要請をしている海外企業から色よい返事がもらえなく俺にその企業を口説き落としてこいということらしい。
もちろんそれだけではなく、本社移動は三か月後、引継ぎと同時にプロジェクトにも携われという無茶ぶりをされ顔を引きつらせる羽目になった。
それでもやるしかない。
覚悟を決めればムクムクと闘志が漲ってくるようだった。
父と対峙した後、なんとも言えない高揚感を感じながら玄関へ向かう。
『ねえ智成、今度お付き合いしているお嬢さん連れてきてよね。楽しみにしてるから』
帰り際に見送りに来た母はワクワク顔で俺に茉緒に逢いたいとせがんできて、母は歓迎ムードなのに安堵する。
『ああ、今度時間があったら。でも暫く忙しくて無理かな』
『じゃあ、私から逢いに行こうかしら』
『それはやめてくれ、茉緒が驚くだろ。今度ちゃんと連れてくるから』
わかったわと言いながらふふふっと含み笑いする母に少し気がかりに思いながら実家を出た。

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