キス魔な御曹司は親友の妹が欲しくて必死です
「いらっしゃいませ」
振り向くとタイトワンピースに大きなサングラスにつば広の帽子をかぶった上品なご婦人が入ってきた。
ここ最近よく来店してくださるお客さまだ。
「こんにちは」
キュッと口角を上げたお客様は奥の窓際の席に座ると私を見上げる。
「今日はなにがおすすめかしら?」
「はい、今日はマスター自慢のアップルパイです。冷めたのもおいしいんですけど、さっき焼きあがったばかりで出来立てホカホカもおいしいですよ」
「じゃあそれを頂こうかしら」
「はい。それとアロマブレンドですね」
「ええ、お願いね」
会釈して離れるとカウンター越しにマスターにオーダーを伝え、私はそっとそのお客さまを振り返る。
初めて来店されたときから『今日のお勧めは?』と聞いて私のおすすめをそのままオーダーすることが多い。ゆっくりとコーヒーとケーキを堪能して帰りには『おいしかったわ』と声を掛けて帰って行くお客さま。
窓の外を見ているその方はいつもつば広の帽子とサングラスをしていて外すことはなく素顔を見たことはないけど、気品があってお上品で女優さんかしらといつも考えるけど思い浮かばない。
「最近三日と開けずにご来店下さるわねあのお客さま。なんか気になるわね」
「ええ、見たことある気がして、女優さんでしょうか? 思い出せないんですけど」
「わあ、女優さんだったら驚き! こんな喫茶店に足を運んでもらえるなんて光栄だわ」
寛子さんとこそこそ話してるとその女優さん(仮)がこちらを見た気がして口を噤んで苦笑いで会釈した。
そうこうしてるうちにアップルパイとコーヒーのアロマブレンドが出来上がっていそいそとそれを女優さん(仮)に持っていく。
「ありがとう」
サングラスで目は見えないけどにっこり笑ってゆっくりとコーヒーの香りを嗅ぎ口を付ける女優さんはやっぱりひとつひとつの仕草に気品がある。
それをこっそり見てはああいう女性になりたいなあ、とふと思った。

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