キス魔な御曹司は親友の妹が欲しくて必死です
ソファーにふたりで座り、しばしの沈黙の後、智成が口を開く。
「浩紀って?」
「ああ、うん。元カレ。三カ月ぐらい前に別れたの。ちょっといざこざがあって別れたからもう会いたくないの。よくあることでしょ? だから大丈夫」
なんでもないように答えても、内心智成に浩紀の名前を出されて胸がぎゅっと鷲掴みされたように苦しかった。
「夢でうなされるほど弱ってるくせに、大丈夫なわけないよな?」
「え?」
なんのことだかわからなくて首を傾げると、この前映画を見て寝てしまったときにうなされてたという。
寝言で浩紀の名前を言っていて、気になっていたと智成は心配してくれる。
まさか寝顔だけでなく寝言を聞かれてたとは、恥ずかしいを通り越して脱力してしまった。
なにがあったか話して、と、引いてくれそうにない智成に促されてぽつりぽつりと話し出した。


私は、地元の大手運送会社の事務員として働いていた。
事務職員は十数名。その中でも私は社長にかわいがられよく仕事の手伝いを頼まれていた。
それが前に言っていた秘書みたいな仕事。
社長は気さくな人でいつもにこにこして、手伝ってくれていつも助かると言われて私もその気になって大変でもやりがいを感じていた。
そして、二年ほど前から配送担当の二つ上の浩紀と付き合うようになり、プライベートも充実して幸せだった。
浩紀はイケメンとまでは言わないけど優しい顔立ちで人好きするタイプ。少し頼りないところもあるけど、優しくて、一緒にいると楽しくて、ずっと一緒にいたいと思えるほど大好きだった。
大きな喧嘩もなく二年付き合ってそろそろ結婚しようかと話が出た頃、半年前くらいのことだ。社長の娘さんが転職してきたことから状況が徐々に変わっていった。

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