キス魔な御曹司は親友の妹が欲しくて必死です
そこまで説明して、智成が話を止める。
「ちょっと待て。その話、この間の映画の内容そのままじゃないか。そんなわかり切った嘘をつくなよ、俺には本当のこと話してくれないのか?」
不満げな顔をする智成に私は慌てて否定する。
「違うの本当のことなのよ、あの映画の内容を私は知らなかった。あれはほんとに偶然で、私も自分の境遇に似ていて驚いた。あのときのことを思い出して見ていられなかったほど……」
途中からもう胸が苦しくて耐えるように目を瞑っていた。そのうち寝てしまって夢にまで出てきてうなされたのだろう。
それほどあの映画は、舞台こそ都内のアパレル会社の話だったけど、平凡なヒロインと頼りないヒーロー。そしてヒーローにちょっかいを出し、ヒロインの悪い噂を流し別れさせようとする恋敵の社長令嬢という設定は私の境遇そのものだった。
「ほんとなのか?」
智成も驚いて目を丸くする。
「じゃあ、その先の話も?」
「うん」
私は途中までしか見てないけど、あの映画のように会社内で私は針の筵で、案の定浩紀も噂を信じ、事実を聞くことなく別れを切り出された。
もう、その頃には浩紀とかおりさんはそういう仲になり、かおりさんは不倫で父を奪われた悲劇のヒロインよろしく大層嘆いて同僚や浩紀の気を引いていた。
直に社長に事の真相を聞きだそうなんて人がいるわけもなく、社長は自分が不倫の噂になっている状況を知らない。
良くも悪くも鈍感な人だから、変わらず私に話しかけてきて余計に皆の注目を浴び、おかげで陰口だけでなく嫌がらせまでされるようになってしまった。
だからといってそのことを私が社長に言うこともできない。
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