キス魔な御曹司は親友の妹が欲しくて必死です
真面目に相談するどころか、なんでもないことのように軽く「わたしと社長、不倫してるみたいですよ?」なんて冗談めかして言うことさえできないほど、その頃の私は疲弊しきっていて、誰も信用できなくて、心身ともにボロボロだった。
見せつけるように寄り添う浩紀とかおりさん。かおりさんに同情する同僚たち。
居場所のなくなった私は逃げるように会社を辞めて、実家に閉じこもり悶々としていた。
そして、一カ月が経った頃、社長が私に会いに来た。
「謂れのない噂に苦しめられていたなんて知らなくて済まなかった。不倫の噂を流したのはかおりなんだ」
神妙な顔で、平身低頭謝る社長を何の感情もなく見つめていた。
噂を広めたのがかおりさんだなんて、とっくに知っている。
別れを切り出した浩紀の横で、勝ち誇ったように微笑むかおりさんに、ああ、彼女なんだと悟った。
かおりさんが噂を広めたならみんな信じてしまうだろう。なにせ当事者の娘なのだから。
そこまでして浩紀を手に入れたかったのか。
それは愛情なのか、優越感に浸りたいだけなのかわからないけど、もう、どうでもよかった。
社長はやっとその噂を知り、かおりさんを問い詰め、私に謝りに来たという。
映画では、きっとヒーローもその事実を知り、本当に好きなのはヒロインだと気づき最後はふたり結ばれるのだろう。
でも浩紀は会いに来ることはなかった。
来たとしても二度と会うことはしない。
彼はまだ別れていないうちからかおりさんと関係を持ち、私を裏切ったのだ。
私の言い分も聞かずに切り捨てた浩紀を許せるはずもない。
このまま実家にいても私は腐っていくばかりだ。
詳細を知らない両親にも心配ばかりかけていてはいけない。
私は新しい土地で新たにやり直そうと思ってお兄ちゃんの許に来た。




洗いざらい話すと深く息を吐いた。
こうやって話してみると、やっぱりこの物語はつまんない。
あの映画が面白くなかったのも頷ける。

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