キス魔な御曹司は親友の妹が欲しくて必死です
「茉緒」
智成が私を呼ぶけど絶対酷い顔してるから見せたくなくて俯いたまま。
返事をしないでいると智成の大きな手が私の両頬を挟み無理やり目を合わせられる。
「茉緒、こっち向け」
「やだ、見ないで、離して」
「茉緒は、前を向くためにこっちに来たんだろ?」
智成の手首を持って外そうとしたけどびくともしない。
静かに問いかけられて情けない顔で智成を見つめ返す。
「茉緒は初めて会った時から明るくて、そんな心の傷を抱えているなんて気づかなかった。辛いはずなのに人に悟らせないなんて茉緒は強いな」
耐え切れずに一筋流れた涙を親指で拭いながら智成は優しく、偉いな、よく耐えたな、と褒めてくれる。
その言葉に絆され辛かった日々の苦しさが流れ出るようにまた一筋涙がこぼれた。
でも私は強くも偉くもない。
ただ、心の傷に蓋をして忘れてただけ。
「そんなことないよ、こっちに来て、智成とお兄ちゃんのおかげで毎日楽しくて、ほんとに忘れられてた」
実家を出たはいいけどひとりだったらきっとずっと辛い過去を引きずって暗い気持ちのままだったかもしれない。過去を忘れ明るく過ごせたのはやっぱり智成とお兄ちゃんが傍にいてくれたおかげだ。
「本当にそうなのか?」
「え?」
「電話で動揺するほど、まだ心の傷は癒されてないだろ? 茉緒は浩紀のことまだ……」
「もう浩紀のことはなんとも思ってない! あんな裏切り者、もう会いたくないだけ」
心の傷となって疼いてもまだ浩紀のことを想ってるなんて微塵もない。
私の心の中にはもう、違う人がいるから。
きっと、浩紀のときより、強く、熱く、恋焦がれてると思う。
だけど、到底結ばれそうにない。
こんなに優しくされて、心配してくれてるけど、きっとそれは愛情じゃない。

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