キス魔な御曹司は親友の妹が欲しくて必死です
逞しい腕が私を囲い込み抱きすくめる。
智成の腕の中は温かくてなんだか安心できてまた涙が溢れてきた。
背中に腕を回すとより強く抱き締められお互いの体温が交じり合う。
ぐすっと鼻をすすると、腕を緩めた智成が手で涙を拭う。
「泣くなよ」
「これは、幸せだから泣いてるんだよ」
困ったような智成に、私は自然と笑顔を見せた。
一瞬、智成の顔が真剣になり男らしい喉仏がごくりと上下に動いた。
瞳の揺れる智成を見つめると、その瞳の中に何かを期待しているような自分の顔が見える。
近づき迫る影に導かれるように私は瞳を閉じた。
重なる唇の温もりに、私はやっぱり涙を流す。
辛さや悲しみじゃなく、幸せで心が温かくなるような涙。
一度離れた智成がまた困った顔をして私はまた微笑んだ。
智成は涙を掬い取るように目尻にキスをしてまた唇を塞いだ。
今度は口を割り舌先を操り口内を弄ぶ。
舌を絡め強く吸われて甘い声が漏れた。
息もつけないほど深いキスをして荒い息を吐いて離れた智成がちらりと時計を見る。
私は今何時なんて気にすることができないほど朦朧としていた。
「茉緒、俺を見ろ」
「あ、智成……」
目をさまよわせて私が見たのは、欲情を孕ませた男の顔をした智成だった。
「茉緒、本当のことを言え。俺に、どうしてほしい?」
吐息が熱い。きっと私も女の顔をしてるんだろう。
わかってるくせに、智成は私に言わせたいらしい。
高まる感情にもう後先なんて考える余裕がないくらい、今はただ、智成が欲しいと思った。
「智成」
「ん?」
「私を抱いて。嫌なこと全部忘れるくらい、幸せで埋め尽くして」
「わかった」
嬉しそうに蕩けた顔をした智成は私の幻想ではないと信じたい。
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