ハニー、俺の隣に戻っておいで
すると、ジョンは思わずよろめいた。 彼女が本気で殴るつもりだとは思っていなかったのだ。

数秒前、彼はずるそうな表情を顔全体に浮かべたワルだったのだが、 今は彼のほうがビクビクしている。

ジョンの気分は沈んでしまった。

「ニーナ、拳を下ろせよ!」 ジョンは怒った顔をするとニーナから離れて立ち、 彼女を指差してギロリと睨みつけた。

本当は怖かったのだが、それでも傲慢に振る舞っているのだ。

ジョンに命令された人はみんな諾々と従うのが常なのに、 なんでこの子に限って気にもかけないのだろうか?

ジョンが相手だとなると、市内の人は誰も一線を超える勇気すらないのだが。 彼は十歳の時からずっとこの圧倒的な存在感を放っており、 誰も彼に立ち向かおうとはしなかった。

しかしニーナは違っていて、 ロバのように頑固なのだ。 彼女はイライラするとジョンよりさらに居丈高になるらしい。

「怖いなら、私の邪魔しないでくれない?」 ニーナは言葉でなら説得こともできるが、力ずくで言うことを聞かせることはできないのだ。 彼女を煩わせる者は怒りを買うことになり、 言うことを聞かない者はしこたま殴られると言うわけだ。

ジョンは背筋を伸ばし高飛車にこう言った。「だったら、一人で帰ればいい」

「あっそう?」 ニーナは鼻を鳴らして勝利感に酔いしれる。

けれども彼女が立ち去るや否や、ジョンはヘンリーに市内のタクシー会社を全て買収させ、ニーナを乗せることを禁じるよう命令したのだ。
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