ハニー、俺の隣に戻っておいで
ブラックカードを見るや否や店員たちの卑劣な表情は消え去り、 一人がお辞儀をして彼女を連れて行き、支払い手続きを行った。 十分もしないうちに取引は完了し、ニーナは車に乗って去って行った。

車に乗り込む前に長い髪をきっちりと縛ると、繊細な顔が露わになり、魅力的な首が浮き彫りになる。 ニーナは軽く微笑んで、その整った魅力的な容姿をますます印象付けた。

彼女はジョンに、自分に何かを無理強いすることはできないのだと知らせるつもりだった。

そして車に乗り込むと、鏡の中に映る自分の姿を満足そうに眺めた。 彼女は実際、どんな角度から見ても美しい。 その後バッグからサングラスを取り出すと鼻に掛け、 すぐさまエンジンをかけて堂々と走り去った。

新車に乗って自動車ディーラーから出てると、ベントレーが近くに駐車しているのがすぐに目に入ったので、 ニーナはわざとスピードを落として振り返り、手を振りながら勝利を見せつけると、堂々と誇らしげに走り去る。

「じゃあね!」 彼女は微笑みながらそう言った。

そしてハンドルを回し、鼻高々で運転する。

一方、ジョンの顔は凍りついていた。 彼はニーナが歩いて帰るか、然もなくば別の方法を考えると思っていた。

けれども、場当たり的に新しい車を買うというのは予想外だった。

「そんな金どうやって用意したんだ?」 ニーナは天涯孤独の学生で、夫には相手にされていないというのに、 そんな気軽にランドローバーを買う余裕などあるはずないのだが?

安い車ではないし、何百万もするはずだ。

その程度ジョンにとっては端金だが、ニーナは身寄りのない女性だ。 どこにそんな大金があるのだろう?

ヘンリーは鼻を触りながら慎重に尋ねる。 「シー社長、ルーさんがお金に困っていない可能性についてお考えになったことはありますか?」

サムはいい加減に孫の嫁を選んだ訳ではないので、 彼がニーナを選んだということは、彼女にも強力な後ろ盾がいるということなのだ。

「それは考えたことがなかった!」 ジョンの瞳は怒りで凍りつき、声は恐ろしいほど冷たかった。
< 183 / 255 >

この作品をシェア

pagetop