ハニー、俺の隣に戻っておいで
「今すぐ会社に戻るぞ」

「かしこまりました」

ヘンリーは素直に答えた。

ジョンはタイムグループに入るや否や暗く威圧的な雲で会社全体を包み込んだので、社員たちは皆、恐怖に陥ってしまった。 彼の怒りは誰でも容易に感じ取れたので、そのときジョンの前を横切る勇気のある者はなかった。

ジョンは機嫌が悪くなると仕事に没頭するのが習慣で、 書類を片付けると、今度は以前に扱った書類を取り出して再び目を通した。

そしてすべてのファイルを精査し、わずかな過失や間違いまで探し出した。

もちろん、間違いの大小に関わらず、不運にも不始末をしでかした人はジョンの怒りのはけ口にされるのだ。

ミシェルを家に送ったあと会社にやってきたジェームズは、どうも様子がおかしいことに気づいていた。 そして、オフィスをのぞき込むと、大勢の社員が暗い悲壮な顔で一人一人が頭を下げているのが目に入った。

「なんだなんだ? おじさん、また怒っているのかよ?」 シーフードレストランでは全部うまく行ってたじゃないか。 ジョンはニーナに向かって色っぽいことまで口にしていたのに。

「シー社長は ニーナさんを学校まで送るつもりだったんですが、上手くいかなかったので タクシー会社を全て買収してしまったんです。それでも彼女が社長の車には乗ろうとしなかったものだから……」とヘンリーは説明したが、どういうわけか急にジョンが気の毒になってきた。

「本当かよ? で、彼女は大学まで歩いて帰ったのか?」 ジェームズの呆然とした顔全体に狼狽が現れる。 まさか、ジョンがニーナに遠くまで歩いて帰らせるとは思えないが。

「それが、違うんですよ」とヘンリーは首を振りながら答える。

もしニーナが歩いて帰っていたのなら、ジョンは、彼女が頑固に強情を張ったのだから自業自得だと言ってほくそ笑むこともできただろう。
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