ハニー、俺の隣に戻っておいで
なんてこった! ジェームズは叔父の恐ろしい表情を見て身震いする。

ジョン叔父さん、突然おっかない顔して一体どうしちゃったんだ? まるで俺が貴重品でも盗んだみたいじゃないか。

けれども、ジョンの厳しい視線を前にしては、ジェームズは知っていることを洗いざらい白状するほかなかった。 「ミシェルですよ。 以前はイザベラだったけれど、今はミシェルです。 彼女はニーナおばさんの親友だから、弱点になるかもしれませんよ」

ジェームズはニーナと過ごすうちに様々なことを知っていた。 ニーナは孤児で友人があまりいない。

そして、イザベラとの交友を絶ったニーナに手を差し伸べ、良くも悪くも固執したのはミシェル一人だった。 ミシェルは手頃に分けあえる食べ物があればいつでもニーナにあげるだけでなく、 彼女を前にすると甘やかされた子供のように振る舞ったが、ニーナは自分の意思に関わらず、必ず文句も言わずについて行くのだった。

あまりに恐ろしかったのでミシェルの名前をつい口にしてしまったが、ジェームズは自分が友人を売った裏切り者のような気がして苦悶し、 恥辱と怒りを顔に覗かせながらジョンを睨みつけた。

「ジョンおじさん、絶対に後悔しますよ。 ニーナおばさんの堪忍袋の緒が切れて叔父さんと別れることになったら、あなたがどうなるか見物させてもらいますからね」

ジェームズは振り返ると、両親に叱られた哀れな少年のように怒って立ち去り、急いで学校に戻った。

彼は学校に着くとすぐに今しがたの出来事を話すためにニーナを探しに出かけ、 恐怖のあまり彼女を裏切ってしまったことを認め、ジョンには気をつけろと忠告した。
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