ハニー、俺の隣に戻っておいで
ジェームズはいつも傲慢に振る舞っていたものの実際にはとても親切な人間であり、友人に対しては真摯で誠実なのだ。

ニーナはジェームズが弱点をバラしてしまったことについては怒らなかったが、むしろジョンに対して反感を抱いた。 あの喧嘩腰の男はどこまでも卑劣漢であり、欲しいものを手に入れるためならなんだってするに違いない。

もしジョンが本当にミシェルを脅迫するようなことをしたら、彼女は無実の友人を巻き込んだことで負い目を感じることになってしまうだろう。

しばしの長考の後、ニーナはジェームズに真剣な顔で尋ねる。「どうしたらあなたの叔父さんは私のこと を諦めるのかしら?」

ジェームズは頭を掻きながらじっくり考え、そして答える。「普通の人間はジョンおじさんに堂々と歯向かっていったりしないんだ。 だから、おまえがもっと素直に振舞ったら興味を失くすんじゃないか? ちょっとおべっかでも使って喜ばせておけばいいのさ。 叔父さんは一度も……」

顔を引っ叩かれたり棒で殴られたことはないんだ、と心の中で続けた。

ジェームズの視点では、ジョンがそれまでに受けた仕打ちに対して仕返しをしたのは無理もないように思えていた。

「ああ、なるほど」ニーナは深く考えながら頷く。

ジョンは誰かが歯向かってくるとその人物に大いに興味を持つのだが、 彼の気まぐれに唯々諾々と従うような人にはすぐに飽きてしまうのだ。

ジョンは自分に立ち向かってくるような新しく新鮮な感覚が好きらしいのだ。

それならば、その心理を逆に利用し、次に会うときは素直に振舞ってみようと言うわけだ。

とはいえ彼女は今のところ対策をとる必要がある。 と言うのも、ジェームズによればジョンはミシェルを巻き込もうとする可能性が非常に高く、 彼女を見守るためにも、ニーナはジェームズに頼んでミシェルの家に連れていってもらう事にした。

ミシェルは、ありとあらゆる種類の屋敷が立ち並ぶ、郊外の富裕層向け高級コミュニティに住んでいた。
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