ハニー、俺の隣に戻っておいで

「ニニ、私のお母さん料理がとっても上手いのよ。 ほら、座りましょう」ミシェルはそう自慢げに言うと、ニーナをソファに連れて行った。

バルコニーに立っていたアダムズ・へーも家に来客があることに気づき、 上司の電話を聞きながらニーナに向かって微笑み頷いて挨拶した。

彼は、何年にもわたって粘り強く取り組んできた科学研究プロジェクトについに投資する者が現れたと聞くとぬか喜びした。

けれども、彼はすぐに顔を俯け、不安そうに居間を一瞥する。

そして、電話を切るとニーナに妙な笑顔で挨拶し、複雑な心持ちで台所に向かった。

ニーナはその表情を見るなり何か問題がある事に気づき、そっと彼の後をつける。

彼は台所に入ると妻に向かって「俺たちのプロジェクトに15億円投資するという申し出があったらしいぞ」と言う。

「本当？ うわー！ やったじゃない！」 エレインはエプロンで手を拭ったが、興奮のあまりうるうるの目から涙が溢れそうだった。

彼らは二人とも科学研究員で数年前からずっとそのプロジェクトに携わっていたのだが、 資金不足のため少しずつしか研究を進めることができなかった。 しかし、投資の提案があるとなればプロジェクトはぐんぐん進むことになるはずだ。

嬉しさのあまり二人は涙を堪えられず、ほとんど泣き出しそうだった。

しかし、彼の顔はすぐに真剣になり、「ミシェルにニーナという親友がいるかどうか知っているかい？」と妻に尋ねた。

「ニーナ？」 エレインは驚いて心配そうに居間を一瞥する。彼女の視線を追いかけてアダムズもニーナの方を見つめ、二人は目があったが、 彼は後ろめたそうに目を逸らしてしまった。