ハニー、俺の隣に戻っておいで
しかし、兄のことを考えるとさらに苦々しい気分になり、泣き出さずにはいられなかった。

「わーん」

ジョンはニーナが突然泣き出したので驚き、絶望の涙を流す彼女を見つめる。

「おい、どうしたんだ? 泣くなよ」 ニーナと知り合ってひと月も立っていないが、ジョンはすでに彼女がどれほど気丈か知っている。 ニーナに出くわすたびに、彼女はいつも冷静かつ理知的に問題に立ち向かっていたではないか。

それが今、どうしてあんなに落ち込んで泣いているのだろう?

彼の口調は少しばかりきつかったので責めているように聞こえなくもなかったが、彼にそんなつもりはなかった。 何でこんな大泣きしているのだ?

ジョンはさっとティッシュを取り出すとニーナの涙を拭い、 途方にくれた様子で辛抱強く説明した。「怒ってなんかないよ。 何で飲んだのか訊いただけさ」

ジョンは、怒ってなどおらず単に質問しているだけだということを強調した。 しかし、ヘンリーはそう思わなかった。

ヘンリーは内心ほくそ笑みながら、あんまりきつい口調で話すから ルーさんが泣いてしまうんですよ、と思っていた。

ニーナはジョンに涙を拭ってもらうと、さっきまでよりもさらに大泣きし始めた。 慰めてくれる人が側に居なかったらそんなに大泣きしなかったかもしれないが、 優しくしてくれる人がいると思うと涙が止まらず、思いっきり泣いてしまったのだ。

「えーん…… グスングスン……」 ニーナは絶え間なくすすり泣く。

「もう泣くなよ。 泣くなって」 ジョンはこんな事態に遭遇したことはかつてなかった。

しかし、ヘンリーが「シー社長、 宥めてあげたらどうですか? ルーさん、まだお若いんですよ」と言う。
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