ハニー、俺の隣に戻っておいで
「宥めるのか?」 ジョンはわがままなので、どうやって人を宥めたら良いのか皆目見当がつかないのだ。

しかも、ニーナが泣くなどということには全く慣れていなかったので、涙を拭ってやることしかできなかった。

けれども、彼が涙を拭いてやるほどニーナはもっと涙を零すのだった。 ジョンは涙を拭くためにさらにティッシュを取り出したが、彼女を宥めるために口を開こうとはしなかった。 結局のところ、何と言えばいいかわからないのだ。

ニーナは唇を尖らせて泣き続けていたが、ようやく大泣きする声は微かな嗚咽に変わり、 悲しそうに鼻をすすると肩を震わせた。

そして、涙をぬぐっている男に目をやる。 これまで彼女は誰にも涙を拭いてもらったことがなかった。 両親には泣くんじゃないと厳しく躾けられ、 泣くたびに役立たずの烙印を押されたものだ。 だからニーナが泣いたことは数える程しかなかったし、その時でさえ誰にも見つからないように隠れる場所を探さなくてはならなかったのだ。

子供の頃からこういった厳しい躾を受けてきたので、ニーナが涙を見せることは滅多になかったし、ましてや大泣きするなど無いに等しかった。

しかし、今回はもはや堪えることができなかった。 彼女が本当に望んでいるのは温かく愛情のある家族を持つことだけなのだ。 そして、将来授かる子供に自分と同じ苦労や悲しみを経験させないためにも、良き妻、良き母にならなくてはならない。

「うぇーん…… えーん……」 再びニーナの泣き声が激しくなり、涙が溢れ始める。 そして、ジョンの腕の中に身を投げると男の胸に安らぎを求めて頭を埋めたので、 嗚咽がくぐもる。

それに驚いたジョンが手を止めたため、 ティッシュは彼の長い指を滑り抜け、ふわりと窓の外に浮かぶと静かな夜闇に消えていった。

ジョンは、ニーナが自分のことを頼しきって腕の中に身を投げ出したとき驚いて身震いしたが、同時に心を動かされたようでもあった。
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