ハニー、俺の隣に戻っておいで
ニーナは呼び鈴を一度鳴らし咳払いすると、まるでプロのホテル従業員のように言った。 「シー様、 ルームサービスでございます」

「ちょっと待ってくれ」と部屋の中から男の低い声が答える。

これ見よがしに満足した笑顔でニーナは脇に寄りかかり、気怠そうに手を振りながら、 「ほら、シー様って呼んだら答えたわよ」と言った。

つまり、部屋の中にいるのは他ならぬジェームズで間違いない。

「ふん、あのやろう、本当に浮気しているんだ!」 ミシェルの顔は突然青ざめ、目に見えて怒っていた。

彼女はバッグからさっき道路脇で拾った木の棒を取り出すと、 頭上に掲げて襲いかかる準備をしながら目の前のドアを見つめた。

「ミス・キャンパス、ドアをノックしてくれる?」 出てきたらすぐ、容赦無く叩きのめしてやる」とミシェルは悪辣な調子で言った。

ニーナはミシェルを見つめ、微かにニヤリとした。 彼女の膨らんだ頬はイルカのようで、無邪気な表情が可愛らしく、喧嘩なんかできそうにない。

こんな有様で、どうやって浮気現場を押さえようと言うのだろうか?

ニーナは、以前自分が悪口の標的にされたときミシェルが庇ってくれたことを思い出し、感謝の印としてミシェルを手助けして恩返しすることにした。

そして「わかった」と頷くと、 壁にもたれかかってさりげなくドアをノックする。全ての身振りに彼女の気高さが見て取れる。

「こんにちは、 シー様?」

ニーナの魅力的な音楽のような声を聞いたミシェルは、うっとりして、再び彼女の魅力の虜になってしまった。 そして、何かに取り憑かれたようにニーナを見つめる。

ドアを叩いているだけなのに、ミス・キャンパスはなぜこんなにも美しいのだろうか?

少し間があって、ドアがギーッと開く。

ミシェルはまだニーナの美しさにうっとりしていて、考えがまとまっていなかった。 そして、振り上げた棒はそのまま空中に留まっていた。
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