ハニー、俺の隣に戻っておいで
「えっ？ 女の子なんてたくさんいるから、誰かと言われても……」

「貴様……」
ジョンはカンカンになって立ち上がり、ジェームズを死ぬほどひっぱたいてやるつもりだった。けれどもそのとっさの反応とは裏腹に、怒りをこらえるために深呼吸して落ち着こうとした。

「女の子はビデオチャットでおまえのこと知っていると言っていたぞ」

ジェームズはすぐさま彼女が誰だったか思い出した。 退屈のあまり、インターネットで知り合った女の子に夢中になったことがあったのだ。

彼女はL大学の二年生だった。ジェームズはまさか自分の愚かさがこんな災難に発展するとは思いもよらなかった。

恋愛沙汰を決して軽んじてはならないというのは本当だ。 たとえインターネット上の単なる仮想的な関係であったとしても、気をつける必要があるのだ。

「ジョンおじさん、俺、それを今から何とかしてきます。 今すぐ行かなくちゃ」
ジェームズは逃げ出す方法を思いつくとそう言った。すでにあちらを向いて出かけるそぶりを見せている。もう一秒だってこんな所に居たくないのだ。

「行っていいなんて誰が言った？」
ジョンは、ジェームズが全部説明したら立ち去っていいなどとは言わなかった。

ジェームズは、まるで頭上をカラスの大群が飛び回り、闇に包まれてしまったような気がした。 そして素直に一歩後ずさると、次の嵐がやってくるのを恭しく立って待っていた。

結局のところ、彼はまだ若すぎて純朴だったのだ。
< 85 / 255 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop