ハニー、俺の隣に戻っておいで
「おい、どうした?」
ジェームズはニーナのそばを通りかかると咎めるような口調でそう尋ね、イザベラを自分の背後に引っ張って庇った。
「何でひっぱたいたんだ?」

イザベラは、「シーさん、 ニーナを責めないで。私のせいなの」と言って、顔のあざをわざと右手で隠すと内気そうに説明したが、同時に左手でジェームズのシャツの裾を引っ張ってもいた。

「そんなに怖いの? どう言うことか、俺に教えてくれないか?」
イザベラがニーナを庇って抗議すればするほどジェームズの疑いは深まり、まるで悩める乙女を守る騎士のようにニーナを軽蔑の眼差しで睨みつけた。

ニーナは落ち着き払っていたが、よくみるとジェームズが彼の叔父、あの傍迷惑なジョンに見た目も行動もそっくりだと気づいた。 彼女はこの男を見ているとうんざりしてきて、思わず口を尖らせ、

「なんて馬鹿な男だ!」 と内心思わずにはいられなかった。

「ジェームズ・シー?」

ニーナの声がジェームズの耳に届くと、彼は何とも言えない気分になる。 彼女もジョンと同じく気位が高く身勝手な雰囲気を纏っていた。

それもそのはず、ニーナこそジョンを痛い目に遭わせた唯一の女の子なのだ。

イザベラはジェームズがひとしきり黙り込んでいるのを見て、ニーナの顔にまた魅了されてしまったと勘違いし、 哀れっぽくすすり泣くと「シーさん、助けてくれてありがとう。でもニーナは……」と急き立てた。

彼女は大きな涙目でまばたきし、ジェームズを哀れっぽく見つめる。 それから、おずおずとニーナを一瞥して怖がっている体を装った。

そして、すっかり参った様子でうなだれると再び手が付けられないほど泣き出した。けれども、ジェームズのシャツの裾を左手でそっと引っ張ることは忘れない。

「おい、何なんだよ? 本当のことを言えって!」
ジェームズは可愛い女の子の前で面子を失うわけにはいかないのだ。それに、いくら強いとはいえ相手はただの女の子だ。
< 94 / 255 >

この作品をシェア

pagetop