ハニー、俺の隣に戻っておいで
イザベラは目に見えて怯えて後ずさりしたが、あいにく躱すには遅すぎた。

パーン!

ニーナの手の平がイザベラの左頬に叩きつけられる。 平手打ちの澄んだ音は、根が生えたように微動だにしないジェームズを言葉も出ないほど呆然とさせた。

彼は最初ひっぱたかれたイザベラを心配していたが、ふと、叔父もこんな風に殴られたのだろうかと自問し始める。 ニーナがこれまでやらかしたことのツケをまだ払っていないとすれば、どうも胡散臭い。

イザベラは思い切り叩かれて後ろにつんのめり、バランスを失いかけた。 そのとき彼女の顔は痛みと屈辱で燃えていた。この強烈な平手打ちと比べれば、自分でやったのは物の数にも入らない。

「ニーナ、何するのよ!」
彼女の緋色の目は驚きのあまり大きく見開かれ、狂ったようにニーナを引き裂こうとするが、ニーナが弱々しくてその攻撃をさっと躱せるほど身軽ではないと思い込んでいたために、狙いを外してしまった。

ニーナは再び手を伸ばすとイザベラの右手を掴み、 それでもって彼女の顔の右側をひっぱたくと、また一つあざができる。

イザベラが右手で自分の顔をひっぱたくと右側に当たるのだが、 ニーナが彼女と向かい合って右手でひっぱたけば当然、顔の左側に当たるわけだ。

この機転によって、イザベラの顔の右側を最初に叩いたのは彼女自身の右手に他ならないと明らかになったが、ニーナはその手をまだギュッと掴んだままだった。

イザベラの顔には今や三つもあざができて、それはそれは壮観だった。

「ほら、これが私がひっぱたいた痕よ」
ニーナは平然とジェームズに説明しながらイザベラの顔を指差す。

一方、ジェームズもイザベラの赤く腫れた顔を目を細めて見定める。 手のひらの痕が違うのは一目瞭然だった。
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