政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~
しかし良家の子女としてははしたなかったかな、と慌てて口を閉じた。

「そんなに喜んでくれるのならよかった」

備え付けられた四柱式デイベッドに零士さんが腰を下ろす。
手招きされてその隣に座った。

「ここでシャンパンを傾けながら愛を語るのもいいだろ?」

零士さんの右手が、そっと私の顔に触れる。
その指先が私の顎を持ち上げ、視線を合わせさせた。
レンズの向こうから艶やかなブラックダイヤモンドのような瞳が私をじっと見ている。
どくん、どくんと心臓の鼓動が自己主張をしていた。

「……このあとが楽しみだ」

甘い重低音で私の鼓膜を震わせ、離れていく彼の顔をじっと見つめる。
再び視線のあった彼は唇の端を僅かに緩め、ふっと小さく笑った。

「食事に行くか」

「そ、そぅ、デスネ」

みっともなく声は裏返るしぎこちなくなる。
からかわれた、わかっているけれど胸の高鳴りはなかなか落ち着かなかった。

夕食はパリ屈指の高級ダイニングだったが、味はまったくわからなかった。
……このあと、が気になって。
式はまだだが、今日は結婚して初めて一緒に過ごす夜ということは……初夜になるんだろうか。
夫婦になったんだからそういうのも求められるとはわかるが、私はまだ処女なのだ。
今まで誰とも付き合ったことがないとなれば、そうなる。
いや、酔った勢いで捨てようと思わなかったと言えば嘘になるが、実行に移すほどの勇気はなかった。
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