今さら好きだと言いだせない
「家に帰ったら、さっきもらった資料を整理しなくちゃ」
「ずいぶん勉強熱心だな。実際に味を調整するのは研究部の仕事なのに。まぁ……企画もそうだけど、材料のことがわかってなきゃ話にならないもんな」

 私が勉強熱心だと言うなら芹沢くんだってそうだ。
 今日の菓子博についてや、たわいもないことを話しながら、私も負けじと早いペースでビールをあおる。
 すごく楽しい時間を過ごせているせいか、今夜はなんとなく酔いが回るのが早い気がした。

「町宮、俺と席を()わろう」
「え?」
「いいからこっち来て。その顔、見られるとヤバそうだから」

 私たちは一番奥のテーブル席に陣取り、向かい合って座っていたのだけれど、突然芹沢くんがポジションを入れ替わるように言ってくる。
 彼が今まで座っていた席は他の客に背を向ける形なので、これならばたしかに私の赤い顔を晒さないで済むけれど。

「私、そんなにひどい顔してる?」

 恥ずかしくなって思わず自分の頬に両手を当てたら、火が付いたように熱かった。


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