今さら好きだと言いだせない
 それについては、私にも理由はわからない。
 溝内さんの告白を断るために、誰か具体的な人物の名を挙げたほうがいいと思ったのかもしれないが。
 例えば営業事務の佐武さんとか、私でなくても良かったはずだ。

 私としては結果的に高木さんの誘いを断ることができたから良いけれど、彼は佐武さんのことは良かったのだろうか。
 私との噂が広まってしまったら、佐武さんにも誤解されてしまうのに。


「おはよう」


 あれこれ考え事をしながら、燈子とふたりで会社のロビーに足を踏み入れると、後ろから挨拶をされて振り向く。


「徳永さん。おはようございます」


 声をかけてきたのは、今日も素敵なスーツを着こなしていて朝からとても爽やかな徳永さんだった。


「飲み会の返事、そろそろ聞かせてよ」


 徳永さんが口にしたのは、前から誘われている営業部の飲み会のことだろう。
 先日エレベーターで話してから徳永さんとは顔を合わせていなかったので、はぐらかしたままになっていた。
 

「来週の金曜なんだけど、どうかな?」


 具体的な日程を提示されたけれど、今朝の私は精神的に疲労困憊で、明るく対応できずに顔が引きつってしまう。


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