今さら好きだと言いだせない
「すみません、私がちゃんと伝えなかったから……」

 これについては私が悪い。メッセージで“もうひとり”と伝えただけで誰なのかはっきり名前を出さなかったので、同僚の女性が来るのだと誤解させてしまったのだろう。
 徳永さんは、まさか芹沢くんだとは思っていなかったようで面食らっていた。

「彼氏も一緒に連れて行きます、って言えば良かったのに。南帆は恥ずかしがり屋だからなぁ」

 芹沢くんからのいきなりの爆弾投下に、私を含めた彼以外の三人がビキッと音を立てて固まった。
 徳永さんの表情を盗み見ると、かろうじて維持していた愛想笑いの笑みが完全に消えている。

「“彼氏”? なんだ、ふたりは付き合ってるのか……」

 私と芹沢くんの交際のことは、営業部にもチラホラと噂程度の情報は回っているはずだけれど、どうやら徳永さんの耳にはまだ入っていなかったらしい。
 こちらへ視線を移した彼は無言だったが、本当なのかと目で聞かれているような気がして、私は苦笑いしながらもコクリとうなずいて肯定する。

「あれ? 高木さんから聞いてませんか?」
「俺、アイツと同期だけど仲がいいわけじゃないからな」

 芹沢くんがおどけるように尋ねたところで、ようやく徳永さんに愛想笑いの笑みが戻ってきて私はホッと息を吐いた。
 先ほどの怖いくらいの無表情は、単に驚いたからだったのだろう。
 徳永さんと言えば爽やかな笑みが代名詞みたいな人だし、私と芹沢くんが付き合っていたとしても不機嫌になる理由などないのだから、私が勘ぐりすぎなのだ。
< 68 / 175 >

この作品をシェア

pagetop