今さら好きだと言いだせない
「とりあえず今日は楽しく飲もう。奥の座敷にみんないるから」

 徳永さんを先頭に座敷の扉を開けて入っていく。
 するとそこにはすでに十数人集まっていて、それぞれ談笑しながらお酒を楽しんでいた。

「お疲れ様です」と声を掛け合っていると、営業部の男性社員である山本さんが芹沢くんを見つけ、「こっちに来い」と有無を言わさぬ感じで引っ張っていった。
 山本さんはたしか五年ほど先輩だが、芹沢くんとは仕事でよく同行しているからか、とても親しいみたいだ。

 私と燈子は徳永さんに促された場所に腰をおろす。
 あっという間に届いたビールで乾杯をしたが、私たちは自然と営業部の男性たちに囲まれる形になっていた。

 営業事務の女性社員も四人参加していたけれど、芹沢くんも彼女たちに群がられている。
 そりゃ、他部署のイケメンが来たらこうなるに決まっている。芹沢くんだってこの構図を想像できたはずだ。
 
 女性たちの中に佐武さんの姿も見えた。彼女は美人だからどこにいても目立つ。
 芹沢くんも彼女と話しているときはやさしい笑顔だ。
 誰が見ても、私よりも佐武さんのほうが芹沢くんとお似合いだと思う。
 あらためてそう自覚すると、胸の中が火傷をしたようにひどくヒリヒリした。

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