今さら好きだと言いだせない
「芹沢に先を越されたな」

 徳永さんが笑いながら北野くんに言葉をかけているけれど、彼は別に私を好きなわけではないので、もう辞めてあげてほしい。

 会社での話をメインに会話を楽しんでいると、みんなお酒が進むようだ。
 営業部の人たちは話題も豊富で、さすがにコミュニケーション能力が高い。

「この前俺たちとミーティングしたときには、まだ芹沢と付き合ってなかったよね?」
「……はい」
「じゃあ、本当に最近なんだ。どっちから付き合おうって言ったの? あ、それは芹沢だな。見てたらそんな感じがする」

 みんな内心どうでもいいのか、私と芹沢くんの話題はいつの間にか消えてホッとしていたのに、今また徳永さんが蒸し返してきた。
 意図的にポツリポツリと小出しに質問されている気がして、なんとなくそれに薄気味の悪さを覚えた。

 徳永さんとお酒の席を共にするのは初めてだけれど、会社での印象とは少し違うように思う。
 雰囲気が爽やかなのは同じだが、いつもよりかなり饒舌なのだ。
 お酒好きなのだろうか、ビールをあおるピッチも早い。だけど、そのわりにはたいして酔っていない。

「芹沢くんに南帆を持ってかれて残念なのは、北野くんじゃなくて徳永さん自身だったりして~」

 話をよそへ逸らそうと考えていたところに波紋を投じたのは、なんと私の隣にいる燈子だった。
 なにか探りを入れるような笑みをたたえ、徳永さんの様子をうかがっている。
 ぎょっとした私は燈子の腕を肘でつつき、「なに言ってるの」と小声でつぶやいてみたが後の祭りだ。


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