今さら好きだと言いだせない
「はは。廣中さんに痛いところをつかれたなぁ。その通りだよ」

 燈子の冗談を笑いながらサラリと流してくれたのだと思ったが、私の考えは安直だったらしい。

「じゃあ、廣中さんは、自分の好きな人に恋人がいたらどうする?」
「う~ん……状況によりますけど、あきらめますかね」

 私も同じだな、と隣でうなずきながら聞いていた。
 相手をどれだけ好きかにもよるけれど、幸せなカップルの仲を壊して進む恋は気が進まない。

「俺は、たとえ相手に彼氏がいても、好きなら奪う」

 テーブルで頬杖をつきながら、徳永さんははっきりと力強く言い切った。
 燈子と話しているはずなのに視線はこちらに向けられていて、私はこの会話の流れにドキドキしてしまう。

「奪う? 徳永さんはその選択肢だけですか?」
「もちろん。俺のほうに振り向かせればいいだけじゃない?」

 人の気持ちを縛ることはできないから、世の中には“心変わり”という言葉があるのだ。
 誰しもそれはあり得るので責めはしないけれど、物腰やわらかなイメージの徳永さんとはかけ離れた発言だったのでとても意外だった。
 やはり実際に話してみないと、人は見た目だけではわからない。

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