今さら好きだと言いだせない
「佐武さんに()られそうで心配? そんなに芹沢が好き?」

 お酒のせいもあるのか、徳永さんの切れ長の瞳がいつもより怪しげだ。
 色気を帯びた視線で問われたけれど、私は先ほどから胸に抱いた黒い感情を押し殺すのに必死で、なんだか泣きたくなってきた。

「私は、芹沢くんが好きです」

 今はこの言葉を堂々と口にしなければいけない。私は偽装の“彼女”なのだから。
 動揺している場合ではない。

「ごめん、俺いじめすぎたかな。今日は楽しく飲もう。ビールのおかわり要るよね」

 取り繕うように急に徳永さんの顔つきがやわらかくなった。これ以上私を追い詰めても、と考えたのだろう。

「飲みすぎないように“彼氏”に釘を刺されてるので、ウーロン茶でお願いします」

 冷静にそう言えた自分を褒めてあげたい。
 ここで泥酔したら、すべて徳永さんの思い通りになる気がして、流されるわけにはいかないと思った。

「すみません、ちょっとお手洗いに……」

 気持ちを立て直さなければと、私はなんとか愛想笑いの笑みを浮かべてのそりと立ち上がった。

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